あの夏が戻るのなら

室蘭にて

子供の頃は、早く大人になりたい、と思ったものだった。タバコや酒を隠れて呑む必要もないし、親に扶養されているわけではないから、その意見に左右される必要もないだろう、と思った。

「子供はいいなあ」なんていわれる度、辱められているようで、「あんた達の方がずっとイイだろ」と言い返したかった。

子供の頃のその思いは正しかった。二十歳になり、そこから十年ばかり、「大人であること」は最高だった。大嫌いな親のシガラミからも半ば開放されて、遊び・女性・生活・思想、トラブルも多々あったが、思う存分、奔放に過ごさせてもらった。

明日は今日よりも、もっと輝いている。明日の自分は今の自分より、「生きる」ということを良く理解している筈だ。

 

美瑛にて

 

そうした全ての希望が、打ち止めになり始めたのはいつの頃だったか。「オートバイに乗る」という事に関していえば、今日の自分より昨日の自分の方が速かった、と気づいた時だ。そしてそれはもう、取り返しのつかないことに違いなかった。

仕事、女性、親。気づけば、日々の暮らしで、「大人としてのしがらみ」が、身動きのとれないくらい、自分を縛りつけていた。

無我夢中だった恋愛も、繰り返すうち、「まあ、すぐ冷めるだろうけど、とりあえず踊っておく?」なんて具合に、終わりを見込んでから始めるものに変わってしまったし、終わっているのに、それを続けるのも耐え難かった。

日常がもたらす、どんな魂の昂揚も、移ろいやすく、ひとたび過ぎてしまえば、苦みしか残さなかった。

誰かみたく、終わりない魂の昂揚を求めて、自殺してしまうほどの勇気なぞなかったし、出家に値するような既存の宗教なぞみあたらなかった。

 

head

 

そうした日常をこれから長らえてゆくに、せめて、少しばかり、少年らしい安直さを取り戻したかった。エゲツない酒席の冗句に無邪気に笑い、女をたぶらかす事に夢中になれる程度の軽率さで十分だ。

気がつくと、「この夏をあの夏以上の夏に!」なんて、気恥ずかしいくらいの幼稚な台詞をスローガンに、Zを組み始めていた。「あの頃」逆輸入で高価かつタマ数も少なかった「Z”1”」に乗れるなんて、「あの夏」より絶対よいに違いなかった。

 

バルブ

 

まあ、やけくそと言えば、やけくそに近いのだが、機械いじりに徹していると、少なくとも、余計な事は考えずにいられた。

そして、訪れた夏は、孤独であるに変わりはなかったが、案外捨てたものでもなかった。

なんとなくドキドキしながら辿り着いた宗谷岬で、「俺って、これでいいのかもしれない」と、自分に諦めもつき、寛容もできた。

無邪気にバカである限り、本当の恋だって、神様だって、それなりの状況の中で、訪れては、また姿をくらますのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Z1

 

ある春先の、ふとした閉塞感から・・・

書付フレーム、不動エンジン、足回り・・・・と順次入手して、
内燃機屋以外はヒトの手を借りず、ゼロからつくりあげたのが、このZ1。
GWを潰して、ネジ一本まで「全バラ」にして、7月末までに組み上げた。
そして8月、「慣らし」を兼ねて北海道までツーリング。
宗谷岬に辿り着いた時の感慨は今も忘れない。

 

 

宗谷岬にて

 

 

Z1完成直後

 

「できるだけ昔に近く」とは思ったのだが・・・、
もともとロングツーリングにでかけるのが前提だったから、キャブはCR、電装系はDYNA2000にした。
そのうち、チューニング熱が高まってもいいように、一応インナーシムにはしたものの、カムはノーマルを使った。
ヘッド回りは、ポート加工、バルブ研磨、燃焼質磨きと一通りの定石を踏んで、B/Gは打ちかえてもらった。
ピストンは安かったのでK1015にした。
カムホルダーのヘリサート加工(部分的にエンザート)は当然必要だった。
フレームは要所のみを補強。

最初の一年は足回りはノーマルのままだったが、ブレーキがプアーなせいで、いまひとつ気持ちよく走れなかった。
翌年、できるだけノーマルっぽく見えるように、前後足回りを換装して、下の画像のようになった。

 

Z1

 

ハンドル周り

 

 

Z1

 

フレーム

 

ヘッド

さてと、以下は再びZ系をいじる羽目になった時のための忘備録。読んだ方が真に受けても責任は持たない。

Head
1)ハイトの高い(いわゆるStage.2以上のカムを使う場合、ヘッドブロック及びヘッドカバーの切削加工が必要。メタルとカムを仮組してカムが回転した際に干渉しないようリフターの周囲とヘッドカバーを切削する。 この際、リフター周囲ではカム山から1mm程度のクリアランスをとって必要最小限に削る。初期のヘッドより年代順にMK-Ⅱ用のヘッドの方が切削量が少なくてすむ。
2)バルブリフターが底まで引っかかりなくストロークするか必ず確認する。古い年代のバイクはこのあたりの切削精度が甘い。ハイカムの使用によりリフトが増加すると、奥でリフターがカジルことが良くある。クリアランスがきついときはリフター周りをホーニングする。
3)シートカットでバルブが沈み込む場合、バルブの突き出しを計測。シム調節可能な範囲に合わせておく(バルブ長をつめれば良い)。その他、カムの能書に記載されている項目は計測しておくこと。
4)Z1/2に関してはカムホルダー用の16本のボルト穴は予めヘリサート加工しておく。入手したヘッドがヘリサート加工してあっても、それがきちんとトルクがかけられるよう加工されているか確認を怠らない(素人の組んだヘリサートは使い物にならない。加工に自信のない場合はパイロットタップを使う。この際、 ネジ穴の深さをノギスで測って、必要以上にタップを深く押し込まない)。ヘリサートがなめていたらエンザート加工する。カバー用のボルト穴もトルクがかかるか確認して、ダメならヘリサート加工しておく。
5)ポート研磨はインシュレーター及びエキパイとの段つき修正は必ずしておく。あとはスムーズにエアが流れるにはどうしたらよいか考えて切削研磨する。インテークについてはミラーフィニッシュより少々荒さが残ったほうが霧化がよいとされる。
6)Z1/2の場合シートカットのみでIN37.5、Ex31mmまでの大径バルブが使用可能。
7)上記5.6に関して、見栄でビッグバルブ入れてもマスキングが増えるだけ。ドラック用エンジンなどはポート径を広げてから穴をパテで塞いである。シートリングもバルブガイドも削らないようなポートでビッグバルブ使用なぞ、バルブ重量とマスキングの増加だけで無駄。何事も整合性を鑑みて・・・・。
7)バルブスプリングを強化する前に・・・。 車両の用途は草レース?、ストリート?。 耐久性を考えた時のピストンスピードの限界(PistonSpeed(m/s) = ストローク(mm) ・2 ・ rpm /60 ・ 1000) を何処に設定して、そこから許容されるレブリミットは?(24m/sとするなら約11000rpmがレブリミット)。 バルブ重量と、カムのリフト増加で11000rpm までサージング起こさないためにバルブスプリングの強化はどの程度必要なのか?。その必要最小限を見極めることがすなわちフリクションロスを増加させないことになる。結果としてドラッグに使うのでもない限り、ノーマルスプリングの新品を組めばバルジャンなんて起こらない。強化スプリングはフリクションが増加するだけ。
8)Z1ヘッドの場合の面研について。まずレースユースの場合、10.25 : 1のWiseco使って2mm面研まで。これで圧縮比13に乗る程度、12.0:1のWisecoだと同様の圧縮比を出して面研1.3mmまでと考える。双方ともピストンのリセス加工が必要。ストリートユースの場合、排気量にもよるが圧縮比11 : 1程度までがおいしいところ。 これくらいの圧縮比だとシートカットでバルブが沈んでいれば、リセス加工は不要。この際はバルブ゙丈を詰める必要がある。
9)バルブの軽量、鏡面加工と重量合わせ。重量差1g以下で良い。オートチャックのボール盤でバルブを回しながらマイクロリューターを併用。手間を嫌う場合はKPMのステンバルブあたりを買うと、大抵重量が0.5g差程度に揃っている。
10)高圧縮でヘッドに熱がこもりそうな場合はオイルのバイパス加工しておくおく。この代わりにカッパーのガスケットでシリンダーに熱を逃がすという小技もある(カッパーG/Kは脱着に際して焼き戻し必要)。バイパス加工なし、カッパーG/Kのみ、1200cc、10.8 : 1 で、夏場の草レース15周も、田舎の町乗りも問題なし。
11)Z1000J系のヘッドはAPEのカムチェーンアダプターを使って流用可能。Exバルブを例にとるとZ1/2より2mm大きい(バルブ長は1.5mm短い)。1000Jヘッドはドラッグでもない限り不要(格好悪いし)。KZ900/Z750からKZ1000A1-4/FXまでヘッド流用可能。
12)ツインプラグはJ系のヘッド以外ではあまりメリットがない。半球上燃焼室はよほどのノウハウがない限り、いたずらに加工しないほうがよい。1200ccなんてボアの大きいピストンを使用すると、ヘッドの本来燃焼室でない周辺部にデトネーションがでる。多少泡吹いても問題はないが、高圧縮比で行く際には、軽くスキッシュ形成した方が良い。燃焼室容積はメーカー出荷状態からバラついている事が多いので、必ず合わせる。
13)どうしても形状加工してみたい場合はアルゴン溶接でバッサリ燃焼室埋めて、削り直す(日産のL型みたくハート型の燃焼室加工なんてどうだろう?)。
14)インナーシムはKZ1100Aの純正部品を使ってください。1レースごとにエンジンばらして交換しても良い場合以外は間違ってもコッターを含めてチタン製なぞ使わない。
タペット 12032-1001 
リテーナー12009-1006 
シム 92025-1092~1114
14)点火時期についてはハイオクガソリン使用前提で、圧縮比13台に入ると、フルタイミング40度が限界。聴取できるノッキングはなくとも、開けてみると、結構スキッシュエリアを主体に泡を吹いている。使用するピストンと燃焼室加工にもよりるが、圧縮比13台でMAX40度、12台後半でMAX42度程度。オーバーラップの大きいカムを使うときは点火時期の立ち上がりを早くしないと中速のトルクが死ぬ。
15)カムについては、作用角・オーバーラップがでかくて、リフトの高いカムほど高性能、と取り敢えず考える。間違っても狭い作用角で高いリフトのカムは選ばない(バルタイのスイートスポットを探すのに苦労する)。作用角について、カムのマニュアルには指定のラッシュで記載されているものと、ゼロラッシュで記載されているものがあるので混同しないように。
16)タペットクリアランスについて、経験10年という量販店の2級整備士に以前聞かれた。「5/100刻みでしかでてないシムでどうやって2/100とかあわせるんでしょうね?」。削るんだよ馬鹿!
15)バルブタイミングについては、人に聞くくらいなら規定値でやって、規定値でバルブとピストンのクリアランスを見る。インテークのカムが早く開けば開くほど、エキゾーストのカムが遅く閉じれば閉じるほど、バルブとバルブ、バルブとピストンはぶつかりやすくなる。で、一定のリセス加工でどこまでバルタイいじれるのか、クリアランスを確認しておく必要がある。インテークは規定値もしくは経験値である程度決めておいて、エキゾーストをいじったほうが変化がわかりやすい。一般的な事項として105-105より110-110のほうが高回転域重視となり、逆のほうがアイドリングは落ち着く。アイドリングに関してはオーバーラップを減らせば落ち着く。

Piston
1)面研、リセス加工の際、ピストンとバルブのクリアランスはマージン含めてIn 1.3mm、 Ex 1.5mmくらいは確保する。
2)ワイセコ使用時のボーリングの際、クリアランス5/100mm以下なら3000km、 7/100以上なら1000kmくらいは慣らしする。6/100で組んで、荒っぽい慣らしで1000km程度町乗りしたスリーブでも、ピストンが首を振って、ホーニングしたくなるほどスクラッチがある。
3)オイルリングのエキスパンダーの合口を調節するとフリクションを減らせる。
4)各リングのクリアランスは合口を研磨して規定値を守る。
5)軽くバルブが叩いた程度のピストンの傷なら気にしないで再利用可能。一応ヒートスポットにならないよう研磨しておく。
6)Zの場合コンロッドが非分解なので、ワイセコとか使うならピストンの重量合わせは必要ない。気分が悪いというならバラツキ1g以下で十分。
7)KZ900からKZ1000A4までの66mmストローククランクに採用のピストンのピンハイトは26.5mm(Hも26.5)。750の58mmストロークのクランクとJ系以降の66mmストローククランクに採用のピストンのピンハイトは25.5mmでGPZ1100FやZ1100Rなどは、クラウンの高いピストンを採用している。

Crankshaft
1)Z1/2からMK2のものまでスワップ可能。KZ1000A1/2までが15丁、KZ1000A3/4(MK2)で16丁とカムチェーン駆動ギアの歯数が違う。
2)クランクウエイトの加工はエッジを落としてフリクション減らすくらいにしておく。
3)KZ900はくさび型ウエイト。KZ1000A1(の途中?)から丸ウェイトのもの(コイツは重い)になる。丸ウェイトのものは、そのままではちょっと重いので、ウエイト削って何度が使用してみたが、高回転域での振動はくさび型より心持ち少なかった。
4) 66mmストロークのクランクはKZ900,KZ1000A1以降,KZ1000A3以降で大きくウエイト形状が変更になっている(詳しい比較資料があったが行方不明になってます)。KZ900からKZ1000A4までとZIR(D1)は基本的にどのクランクをどのケースに放り込んでも大丈夫。ただし、KZ1000A1・Z1・750FX1以降はダイナモ構造が変更になっているので、流用の際はこれも適応のものに変更、もしくはクランク断端とダイナモローターの加工が必要。


Transmission
1)ミッション組んだ状態でギアをカタカタ動かしてみて、抜けやすそうなら、いわゆる逆ドック加工をしておく。適当に削っておけば、使っているうちに磨り減ってなじむ。この際、噛合が深くなるで、ギアがサークリップに干渉しないか確認しておく。
2)ギアの角を軽く慣らしておく。
3)アウトプットシャフト13128-1013使用

Carburator
セッティングの一例

FCR:FCR39(Z1)、Wiseco1200、WEB-CAM、Ex4-1 95dB
MJ 155、SJ 50、クリップ 3段目、PAS 2.0戻し、PS1.5戻し

CR:CR31(Z1)、WISECO1000、CAMノーマル、Exノーマル四本出し
MJ 125、 PJ 48、 JN Y9、 クリップ3段目、 AS 3/4 戻し

豆知識

73年3月 750RS(Z2)
74年1月 750RS(Z2A)    
74年8月 750RS(Z2A2)  
75年6月 750RS(Z2A3)  
76年4月 Z750FOUR(Z2A4)
76年9月 Z750FOUR(Z2A5)
77年7月 Z750FOUR(D1)
79年1月 Z750FX(D2)
79年10月 Z750FX(D3)
80年8月 Z750FXⅡ(E2)
81年3月 Z750FXⅢ(L1)
82年4月 Z750GP
83年3月 GPZ750
84年2月 GPZ750F

72年 900スーパーフォア(Z1)
73年 900スーパーフォア(Z1)
74年 900スーパーフォア(Z1A)
75年 900スーパーフォア(Z1B)
76年 Z900(Z900A4)
77年 Z1000(A1)
78年 Z1000(A2)、Z1R(D1)
79年 Z1000MKⅡ(A3)、Z1R-Ⅱ(D2)
     Z1000MKⅡ(A3A)、Z1000ST(E1)
80年 Z1000MKⅡ(A4)、Z1R-Ⅱ(D3)、Z1000H(H1)
81年 Z1000J(J1)、Z1100(A1)、Z1100GP(B1)
82年 Z1000J(J2)、Z1000R(R1)、Z1100ST(A2)、Z1100GP(B2)
83年 Z1000J(J3)、Z1000R(R2)、GPZ1100(A1)
84年 GPZ1100(A2)、Z1100R
85年 GPZ1100(A3)