フェリー船上にて
小樽-新潟航路にて
船上の夕暮れ
日没
夕暮れ
夕暮れの大島
黄昏
海面を滑る月光
海にかかる月
月夜
朝焼けの新潟港
かもめ
夏の碧
蒼くうねる波の表を、船は南へ滑る。
日がな一日、デッキには夏の日差しが照り返していた。
太陽が傾くと、海を渡る風は半袖の腕に肌寒い。
膨らんだ朱色の陽光は、今はぬくもりを伝えず、ただ空を燃やす。
蒼と闇との間に、つかの間の白い時間が訪れる。
そのとき、私は隠していた翼で羽ばたく。
金星と木星を、手のひらで掬う三日月を見上げながら、 もう一度だけ、あの頂で、広がりゆく世界に戦きを覚える。
窮屈で透明なジェルで、私をくるんでいた世界。
私の表皮そのままの形に窪んでいただけの世界が、やっと私を解き放つ。
悠久に打ち寄せる海への憧憬に、ただ戦きながら、再び私は聞く。
かつて母の子宮の中で、輝きとも闇ともつかぬ窮屈さの中で、私を震えさせた、血の、波の、さざめきを。
生誕の縁で私を小さなものしていた恐れは、再び死の淵で、同じ音色で囁くのだった。
「生きる」ということの諦念の果てで、「神」と呼ぶよりしかたなかった者。
波の囁きの中で、彼の名を、私は思い出す。
識り、そしてもはやその名を語る故なぞないことに、ただ苦笑いする。
時が鳴るのを聞いた。
船尾の淵に立つと、月明かりが海原に咲いていた。
季節はずれのタンポポでも掬うようにして、恐れに促されるまま、私は身を屈めよう。
溶け落ちるのではない。
夏の碧が、私を、私として、護ってくれることを信じて。
