日の出岬
 

 

日の出岬展望台
岬の展望台 ラ・ルーナ

 

 

日の出岬キャンプ場
日の出岬展望台

 


 

 あれは、雨の中、オホーツク沿いを北上しながら、日の出岬のキャンプ場で野営した、その翌朝のことだった。

 あの朝僕は、テントをたたく激しい風に揺り起こされた。もう一度眠ろうとしたが、風の音がうるさくて、寝付けず、夜明け前にテントをたたみ、オホーツクの海岸線を北へ向けて走り始めた。

 昨夜までの雨はすでに止み、ただ風だけが強く吹いていた。濡れていた路面も枝幸を通り過ぎる頃には乾いてきて、深いわだちに水溜りを残すだけになった。追いつく車も追い越す車もなく、対向車にすらまるですれ違わなかった。

 スピードはとっくにヘッドライトの心細い灯りを追い越していた。闇の中の道路は、疑うべくもなく、まっすぐに続いているはずだ。センターラインの左側あたりに進路を定めて、右へ左へ風に泳ぎながら、ただアクセルを開き続けた。

 やがて世界が薄白く姿を現しはじめた。右手に白波立ち荒れ狂う海、左手に一面の、草色の牧草地。その両者を貫いて、道はただまっすぐに伸びていた。風は、吹流しを真横にしながら、海から陸へ、強く吹きつけていた。時折風が巻くと、途端に半車線以上も、オートバイごと、真横に吹き飛ばされる。それでもアクセルは緩めない。風がひとつ吹き間違えば、僕は弾け飛ぶだろう、と思った。そしてその時、まさしくそれは死に匹敵するスピードだった。

 僕は満ち足りていた。速度の向こう側で、すべての世界は静止画のようだった。光の速度はでたらめだ、と直感的に僕は思った。時間に限界があるのは、宇宙が光速で移動しているからだ。移動するという出来事が、その場の時間を生むのだ。僕がアクセルを開けば、光は加速する。風を貫くほどに、時間は押しつぶされてゆく。僕はこの直感に、この上なく満ち足りていた。

「何も求めません」と、僕は祈った。
「今この瞬間以上の、何ものも、求めません」

 その瞬間、すべてが一瞬きらめいた。水平線の雲の切れ間から、朝日が顔を出しだのだ。僕はその時、確かに、世界が、神の両手に抱かれているのを見た。涙があふれ返ってきた。僕はヘルメットの中で声を張り上げて泣いた。シールドが曇り、世界が涙にゆがんだ。僕はアクセルをねじ切れるほどにひねりこみ、大声で泣き続けた。

 

 

日の出岬